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【MLB】地域密着型の野球ビジネス

 

国には国の、やり方があります。
政治や教育や福祉や労働やその他諸々。
野球ビジネスにも、国によって違う点が多くあります。
特に日本とアメリカの野球ビジネスの違いは大きいです。

今回は、その中で実際に体験した違いについて書いてみます。
全球団ファンに優しい日本の野球と、完全地域密着型のMLBについてです。

私はどうしても……、買いたかった

人生で初めて訪れたMLBの球場、イリノイ州のシカゴのリグレーフィールドで、私は長年尊敬している青木宣親選手のグッズを買うことを楽しみにしていました。

当時青木選手が所属していたのは、ウィスコンシン州のミルウォーキーブリュワーズ。
私が留学していたアイオワ州の隣の州だったので、ブリュワーズの本拠地であるミラーパークでグッズを買うことを考えていたのですが、授業の日程が合わず、それは叶いませんでした。

それならばと、他球場でのブリュワーズの試合日程をチェックしていたところ、学校からバスで5時間ぐらいで行ける一番近い都会、シカゴで試合が行われるという情報が。
授業にも支障が無い日程だったので、希望者を募って6人で初めてのシカゴに向かいました。

 

 

シカゴの街をたっぷり堪能した後、いざシカゴ・カブスの本拠地、リグレーフィールドへ。
そして着いてまず探したもの… それはもちろん青木宣親選手グッズ。

しかし…

歩けど歩けど、探せど探せど、そこにあるのはカブスのグッズばかり。
他球団のグッズなど、1つも置いていませんでした。

私はブリュワーズの青木選手のグッズが欲しかったのです。それだけでよかったのです。ユニフォームという欲張りさえしまっておいた。なんならぼったくられてもいいからステッカーだけでもよかった。
ブリュワーズに青木選手が所属していた、ただその証拠・思い出だけが欲しかったのです。
でも、ありませんでした。

シカゴの人はカブスかホワイトソックスを愛す

アイオワ州の留学先の先生に野球を観に行くという話をした時、とても嬉しそうに「カブスを観に行くの!?」と聞かれたのを覚えています。

カブスファンなのかと問うと、彼は当たり前じゃないかと言いました。
彼に限らず、シカゴに近いその地域の人はシカゴの球団であるカブスかホワイトソックスを応援していました。

シカゴ内だとそれはもっと当然のこととなります。
だから、カブスの球場に、カブス以外のグッズなど必要ないのです。

逆かもしれません。
カブス以外のものがないから、そこにいる人たちは自然とカブスを応援するようになるのかもしれません。

 

既に日本に戻っていた福留選手のユニフォーム。嬉しかった。

 

これが、MLBの地域密着型野球ビジネスの一番分かりやすいところです。

日本の球場では、せめて人気選手の分だけでも、他球団のグッズは置いてあります。
少なくとも、その日の対戦相手チームのグッズは売られています。

優しさ、というのでしょうか。地元の球団を応援してください!という気持ちももちろんあると思いますが、それよりも、少しでも多くの人が応援したいところを応援して満足できるように、これを機に野球ファンになってくれるように、という思いがあるのかもしれません。

MLBは地域密着型のビジネスを展開することで、その地域のチームの根強いファンを増やすことに成功しているのです。

チーム名に注目

日本のプロ野球のチーム名を思い出してみてください。

ヤクルトスワローズ
オリックスバファローズ
日本ハムファイターズ

この3球団、どこの地域の球団か分かりますか?

普段から野球情報に触れることが少ない方は、それぞれ東京と大阪と北海道、と答えるのは難しいのではないでしょうか。
なぜなら、よく呼ばれるこの呼び方は、地名を含んでいないからです。
代わりに分かりやすいのは、どの企業の球団か、です。
球団は一会社なので、正確には親会社がどこか、です。

「私はヤクルトファンです。」と言うと、ヤクルトってどこの球団?と聞かれ、驚くことがよくあります。
だって、正式名称は「東京ヤクルトスワローズ」ですから。

 

 

個人的に、一番地域ビジネスで成功しているのは広島カープだと想っています。
カープは唯一親会社を持たないチーム。
これだけカープ女子などと人気が出れば興味のない方も広島カープを認識するし、”広島の球団”ということも同時に覚えやすいでしょう。

メジャーリーグのチーム名を見てみても、このパターンに当てはまります。

ニューヨーク・ヤンキース
シカゴ・カブス
シアトル・マリナーズ

地名とチーム名のみですね。

MLBでは企業ではなく個人投資家が球団を所有しています。
MLBの投資はかなりのビッグマネーが動くビジネスになっているので、投資家たちにとって重要なお金の駆け引きの対象になっているのです。
また、スポンサー企業が自社名をチーム名に入れることを禁止されているので、MLBのチーム名には企業名が入らず、地名とチーム名のみ、ということになります。

 

地域密着型が生み出すファン

日本でも他のスポーツで考えてみると、サッカーやバスケは地名とチーム名のみで、ファンは地元の方が圧倒的に多いと思います。
そういうファンは根強いファンになってくれることが多く、長く深くチームを愛してくれ、安定した経済効果をもたらしてくれます。

また、その地域の活性化にも大きく貢献しているといういい副作用もあります。
観光業の盛り上がりや、ふるさと納税で応援する球団の地域へ納税する、など。

ただ、この地域密着型のビジネスが必ずしもいいというわけではありません。
自分の地元のチームを愛するばかりに、他の地域のチームを敵対視し過ぎてしまう場合があります。

例えば、私の英会話の先生が「西海岸の人々はニューヨーク・ヤンキースがみんな嫌いよ」という情報をくれました。
そもそもお金を持っているチームは嫌われがちですが、この先生の言い方は、それよりもやはりチームを地域単位で考えているんだな、と思わせるものでした。

ニューヨークという世界の中心の都市にある、お金を持った球団。
反対側の西海岸の方々からすれば、敵でしかないのかもしれません。
東京でヤンキースのキャップをかぶっている私に対して「Nice cap!」と褒めてくれたおじさんは、きっとニューヨークの方なのでしょう…。

 

ビジネスの仕方によってファン層が変わると言うのは面白いです。
どちらが正しい、と言うわけでもなく、その国、そのスポーツの文化がそれによって出来上がります。

でもやっぱり私は、メジャーリーグに在籍していた時の青木選手のグッズを、アメリカで買いたかったです(笑)